戸崎事務所便り令和3年2月号 

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◆最新・行政の動き

 厚生労働省は、1月開始の通常国会に、育介法改正案を提出する予定です。男性の育休取得を推進するため、柔軟で利用しやすい制度作りと休業申出をしやすい環境整備を目指します。

 男性を対象に、2週間前までの申出により、子の出生後8週間の間に、4週間を限度として取得可能な休業の仕組みをを新たに整備します。休業期間中に、一定範囲の就労を予定することも認めます。

 一方、本人・配偶者の妊娠・出産の届出があった場合、個別に取得の働きかけを行う義務を事業主に課します。中小企業にも配慮し、情報提供の方法に関しては、面談、書面など複数の選択肢を示す方針です。

◆ニュース

傷病手当金・育休の保険料免除等を見直し 医療保険改革で議論を整理

 医療保険改革に向け、政府の全世代型社会保障検討会議の議論とあわせ、厚労省でも議論の取りまとめが行われています。

 傷病手当金の支給上限期間は1年6カ月と定められていますが、現行は途中で就労可能となり、支給が中断しても、上限は伸びない規定となっています。「治療と仕事の両立」の観点から、断続的な労務不能期間を「通算」上限を適用する形に改めます。

 75歳以上高齢者の窓口負担は、現役並み所得者3割、それ以外1割となっていますが、「それ以外」のうち年収200万円以上は2割負担に引き上げます。

  育児休業期間中の保険料免除に関しては、短期取得者に関する規定を整備します。現行は休業が月をまたぐ場合のみ免除の対象としていますが、2週間以上休業も対象とします。

 任意継続被保険者の保険料免除については、「2年経過」「保険料未納付」等の法定要件に該当する場合のほか、本人の選択により任意脱退も認める規定に改正する方針です。

「口外禁止条項」は違法、今後の審判に影響も

 労働審判の内容を口外しないという禁止条項について、長崎地方裁判所は、バス運転士の訴えを認め、同条は違法という判断を示しました。

 雇止めにあったバス運転士は労働審判を申し立て、会社側が230万円の解決金を支払って、労働契約を終了するという内容で審判が確定しました。その際、「正当な理由のない限り、第三者に内容を口外しない」という条項が付されていました。

 しかし、バス運転士は、会社側要望により、調停案に口外禁止条項が追加された際、「裁判への協力を約束してくれた同僚には、和解成立を報告したい」と訴えるなど、明確に反対する意思を表明していました。

 判決文では、「将来にわたり義務を負い続けることは過大な負担を強いるもので、審判の経過を踏まえたものとはいえず、相当性を欠く」というは判断を示しました。

 口外禁止条項の違法性に関する判断は初めてとみられ、年間500~600件ほど発生している他の審判にも影響を与える可能性があります。

リスク低減まで一律の手当 コロナ対策で全従業員に支給

 新型コロナに収束の兆しがみられず、変則的な勤務体制が長期化するなか、AGC㈱は、単体の全従業員8000人に対し、3000円の手当支給を開始しました。

 在宅勤務によって生じる光熱費・通信費などに配慮するほか、出社して働くことによる心身の負荷に報いる趣旨で、全社員一律で毎月支給する仕組みとしました。

 同社では在宅勤務を推進し、本社・営業拠点では、通勤費を定期代支給から実費精算方式に切り替えるとともに、PCログを併用する労働時間管理を導入しています。

 しかし、製造や研究・開発拠点に所属する従業員は、在宅勤務への対応が難しく、感染リスクに向き合って出社せざるを得ないのが実情です。

 新設した手当は、リスクが低減するまでの時限措置とし、最大1年間の支給を予定しています。

労災保険料の改定見送り 特別加入制度は拡充へ

 労災保険率は「3年ごとの改定」を原則とし、本来、令和3年度が次の改正年度に当たっていました。

 しかし、厚生労働者は、今後3年の保険収支を試算した結果、現行の保険料率を据え置くと発表しました。第1種~第3種の特別加入保険料率や建設業務で用いる労務比率に関しても、同様です。

 労災保険の業種区分については、次回の改正に合わせ、「医療業」「情報サービス業」を分離・独立させる案も示されていましたが、分離に関する検討も先送りとなりました。

 一方で、労災保険の特別加入制度に関しては、新たに「芸能従事者」「アニメーション制作従事者」「柔道整復師」を対象に追加する方針が示されています。

 令和2年3月に成立した雇用保険法等を改正する法律(労災関係では、複数事業労働者に対する保護を強化)の附帯決議では、特別加入者の範囲拡大を求めていました。

初任給据置きが5割超える 全学歴で引上げ率1%未満に

 経団連が公表した2020年3月卒「新規学卒者決定初任給調査結果」によると、初任給を据え置いた企業は57.4%で、前年比15.0ポイント増加し、2017年以来3年ぶりに5割を超えました。

 前年の初任給から引き上げた企業は、42.6%、引き下げた企業はゼロでした。学歴別にみると、大学卒・事務系21万8472円、高校卒・技術系17万3939円等という状況です。

 引上げ率は、大学卒・技術系で前年比0.55%増、高校卒・現業系0・83%増などで、全学歴で1%未満となりました。

 初任給の推移をみると、2014年以降、業績の回復・拡大によって、横ばい傾向から増加に転じていましたが、2020年は、短大系・事務系で引上げ率が0.34ポイント低下するなど、伸び率の鈍化が目立つ結果となりました。

◆調査

連合「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」

 政府は男性の育休取得促進を重要政策課題として位置づけ、厚労省では法整備に向けた検討が進められています。

 中小・零細企業でも、最近では、「周囲の男性が育休を取得した」と耳にする機会が増えているようです。しかし、どちらかというと「休業を経験としてみる」という点に関心が集中し、その内実はあまり重視されていない傾向があります。

 実際に育休を取得した日数について尋ねたところ、男性は「1週間以内」という回答が約半分(49.3%)を占めています。女性では「6カ月超1年以内」(47.5%)がトップなのと著しい対象を示しています。

休業期間が短いのは、大多数の男性自身が「長期間の休業」を望まないから(しばらく、休業気分を味わえば、それで十分)というのも、一面の真理です。「自分が休めば、誰も代わりがいない」という自負も影響しているでしょう。

 しかし、職場の理解が得られないために、休業の申出を躊躇している男性も少なくないようです。「職場で休業を取得しにくい」と回答する割合は、女性の29.2%に対し、男性は57・6%となっています。

 厚生労働省で行われている育介法改正論議では、「取得しやすい」環境づくりも重要な課題として挙げられています。

身近な労働法の解説

ー就業場所における受動喫煙防止措置の明示ー

 事業主が労働者の募集や求人の申込みを行う際に「就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項」の明示義務が課されています。今回は、明示の具体例に触れます。

1.受動喫煙防止のためのガイドライン

 健康増進法では、国民の健康の向上を目的として、多数の者が利用する施設等の管理権限者等に、当該多数の者の望まない受動喫煙を防止するための措置義務を課しています。

 安衛法では、職場における労働者の安全と健康の保護を目的として、事業者に、屋内における当該労働者の受動喫煙を防止するための措置について努力義務を課しています。

 これを受けて、「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」(令元・7・1基発0701第1号)が策定されています。ガイドラインでは、組織的対策、喫煙可能な場所における作業に関する措置、各種施設における受動喫煙防止対策、受動喫煙防止対策に対する支援が示されています。

2.労働者の募集及び求人の申込み時の受動喫煙防止対策の明示

 労働者の募集を行う者に対しては、どのような受動喫煙防止対策を講じているかについて、募集や求人申込みの際に明示する義務があります。(職安則4条の2第3項9号)

 ガイドラインでは、3.組織的対策(2)受動喫煙防止対策の組織的な進め方「カ 労働者の募集及び求人の申込み時の受動喫煙防止対策の明示」において、次のように明示内容が例示されています。

  • 施設の敷地内または屋内を全面禁煙としていること
  • 施設の敷地内または屋内を原則禁煙とし、特定屋外喫煙場所や喫煙専用室等を設けていること
  • 施設の屋内で喫煙が可能であること

3.職業安定法上の労働条件明示例

注 健康増進法の経過措置対象となる「既存の営業規模の小さな飲食店」は記録省略

※就業場所の一部で喫煙が認められる場合は、実際に喫煙が可能な区域での業務の有無について、可能な限り、付加的に明示してください。記載はあくまでも例です。事実に基づき他の情報を記載することも可能です。

◆助成金情報

職場環境改善計画助成金(事業場コース)

 50人以上の労働者がいる事業所において、平成27年から毎年1回の実施が義務付けられているストレスチェックは、実施後に面接指導や就業上の措置を行うことで労働者個人のメンタルヘルス不調を未然に防止することが主な目的ですが、調査結果を部や課など一定規模の集団ごとに集計および分析(「集団分析」という)し、その結果を職場環境の改善につなげることは努力義務となっています。

この集団分析を実施しその結果をもとに職場環境の改善計画を策定し改善を実施た場合に受けられる助成金です。

【事業主】
  • 労働保険の適用事業場であること
  • 労働者を雇用している法人・個人事業主であること
  • 申請の前年度より前いずれかの年度の労働保険料の滞納が継続している事業主でない など
【対象となる措置】
  • ストレスチェック実施後の集団分析を実施していること
  • 平成29年度以降、専門家と職場環境改善指導に係る契約を締結していること
  • ストレスチェック実施後の集団分析結果や日常の職場管理などの情報をもとに、専門家からの職場環境の評価を受け、改善等の指導をしていること
  • 専門家の指導に基づき改善計画を作成⇒計画に基づき改善の全部または一部実施
  • 改善の実施について専門家の確認

(対象となる専門家とは)

  • 産業医等の医師、保健師、看護師、精神保健福祉士
  • 産業カウンセラー、臨床心理士、キャリアコンサルタント等の心理職
  • 労働衛生コンサルタント、社会保険労務士
【助成対象と金額】

専門家の指導費用 1事業場あたり年間100,000円を上限として将来にわたり1回限り

【手続きなど】

ストレスチェックの実施→集団分析の実施→専門家との契約(職場環境改善計画作成指導)→職場環境改善計画の作成→職場環境の改善→助成金支給申請

※詳細は独立行政法人労働者健康安全機構のHP等をご参照ください。

職場環境改善計画助成金(事業場コース)https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1696/Default.aspx
職場環境改善計画助成金(建設現場コース)https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1698/Default.aspx
「ストレスチェック」実施促進のための助成金ttps://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1692/Default.aspx

今月号より事務所便りをリニューアルいたしました。