戸崎事務所便り令和2年12月号

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今月のことば

「エース社員とは常に全体で考えチームプレーに徹している人間だ」

国吉 拡 人材コンサルタント

今月号の記事から

  • 来年4月施行の70歳までの就業機会の確保(努力義務)について
  • 来年4月1日施行!気になる同一労働同一賃金の取組みと賃金の動向について
  • これからの人材育成戦略「リスキリング」

①来年4月施行の70歳までの就業機会の確保(努力義務)について

◆これまでの高齢者雇用安定法(65歳までの雇用確保(義務)の内容

 高年齢者雇用安定法は、①60歳未満の定年禁止、②65歳までの雇用確保措置を定めています。①は、事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければならないということです(法8条)。②は定年を65歳未満に定めている事業主は、ア.65歳までの定年引上げ、イ.定年制の廃止、ウ.65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入、のいずれかの措置を講じなければならないものというものです(法9条)。①②いずれも当該労働者を60歳まで雇用していた事業主を対象に義務付けられています。

◆令和3年4月1日からの改正~70歳までの就業機会の確保(努力義務)の内容

 65歳から70歳までの就業機会を確保することを目的に、来年4月1日からは、上記65歳までの雇用確保(義務)に加え、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されました。当該労働者を60歳まで雇用していた事業主が対象となります。

  1. 70歳までの定年引上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
  4. 高年者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

 ア.事業主が自ら実施する社会貢献事業

 イ.事業主が委託、出資(資金提供)、等する団体が行う社会貢献事業

④・⑤は創業支援等措置(雇用によらない措置)となり、過半数労働組合等の同意を得て導入します。

◆留意点
  1. 70歳までの就業確保措置は努力義務となるため、対象者を限定する基準を設けることが可能となります(70歳までの定年引上げ、定年制の廃止を除く)。ただし、対象者の基準を設ける場合は、労使間で十分に協議したうえで過半数労働組合等の同意を得ることが望ましいとされています。また、労使間での十分な協議のうえで設けられた基準であっても、事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとするなど、法の趣旨に反するものは認められません(不適切な例として、会社が必要と認めた者に限るなど)。
  2. 継続雇用制度、創業支援等措置を実施する場合において、「心身の故障のため業務に耐えられないと認められること」「勤務(業務)状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責(業務)を果たし得ないこと」といった事項等を就業規則や創業支援等措置の計画に記載した場合には、契約を継続しないことが認められます。

②来年4月1日施行!気になる同一労働同一賃金の取組みと賃金の動向について

◆「同一労働同一賃金」とは?

 同一企業における、いわゆる正社員と非正規社員(有期雇用労働者、パートタイマー、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指し、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されます。

 また、非正規社員から求めがあった場合に、正社員との待遇差の内容や理由などのついて、事業主が説明すること、また、説明を求めたことを理由に不利益取扱いをしないことが義務付けられます。

 2020年4月1日より大企業と労働者派遣について適用され、中小企業は2021年4月から適用となります。

◆企業・労働者はどんな反応をしている?

 11月6日の閣議に提出された「令和2年度 年次経済財政報告」の第2章にて、同一労働同一賃金の取組みや影響に関する内容がまとめられているので、一部を紹介します。

待遇の違いについて、「業務の内容等が同じ正社員と比較して納得できない」と回答したパートタイマー・有期雇用労働者の割合は、「賞与」37.0%、「定期的な昇給」26.6%、「退職金」23.3%、「人事評価・考課」12.7%となっています。

 一方、取組みの実施率は、「業務内容の明確化」35.2%、「給与体系の見直し」34.0%、「諸手当の見直し」31.3%「福利厚生制度の見直し」21.2%「人事評価の一本化等」17.7%となっています。

 また、企業が課題と感じていることは、「費用がかさむ」30.4%、「取り組むべき内容が不明確」19.5%、「社内慣行や風習をける事が難しい」18.7%、「効果的な対応策がない、分からない」16.5%「業務の柔軟な調整」16.1%となってます。

◆対応に必要な費用の一部に助成金を活用することもできます

 厚生労働省のキャリアアップ助成金は、キャリアアップ計画を提出して6つのコースから選んで非正規社員の待遇改善等を行う場合に、費用の助成が受けられます。

 近年、「同一労働同一賃金」に向けて対応を進める企業で多く利用されていますが、申請が適正になされず不正受給と判断されると、支給取消しやペナルティが課されるだけでなく企業名が公表されます。

 助成金の利用も含めて、「同一労働同一賃金」への対応は、専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。

③これからの人材育成戦略「リスキリング」

◆「リスキリング」とは?

 「リスキリング(Reskilling/Re-skilling)」という言葉をご存じですか?これはもともと「従業員の職業能力の再開発・再教育」という意味合いで使われている言葉ですが、近時は、「市場ニーズに適合するため、保有している専門性に、新しい取組みにも順応できるスキルを意図的に獲得し、自身の専門性を太く、変化に対応できるようにする取組み」と位置づけられています。

◆「リスキリング」の有用性

 デジタル化の進展や、コロナウイルスの問題など、現在、企業には、数多くの変化が生じています。あらゆる変化に備える必要があり、そのための対策の一環として、従業員の専門性やスキルを柔軟に取り扱う観点から、リスキリングの有用性が注目を集めています。例えば、変化が生じるたびに、その変化に対応する新しいスキルを持つ人材を雇おうとするのは困難ですが、従業員がすでに習得しているスキルを再開発して底上げすることで対応が可能になれば、既存の人材で企業が直面する多種多様な課題に対応することができ、大変有益です。

 一方で、日本においては、488万4,000人の労働者がリスキリングを行う必要があるとされており(IBMの2019年調査結果による)、まだまだ取組みが進んでいない状況がうかがえます。

◆「リスキリング」の取組み

 リスキリングに取り組むうえでは、従業員の能力や適性を把握して、今後獲得すべきスキルやキャリアの方向性を決定することが大切です。発見したスキルギャップを埋めるための学習を繰り返すことで、従業員のスキルは徐々に底上げされていきます。

 企業にとってもメリットの多いリスキリング。人材を活用するための戦略の一環として、投資を検討してみてもよいかもしれません。