戸崎事務所便り令和2年1月号

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謹賀新年
今月の言葉

人生に解決策などない。あるのは前進する力だけだ」

サン・テグジュペリ フランスの作家

 

 

今月号の記事から

  1. 進めていますか? 36協定締結&作成
  2. 健康保険の被扶養者に国内居住要件が求められます
  3. 障害者向けにスタートした「就労パスポート」

① 進めていますか? 36協定締結&作成

◆「時間外労働の上限規制」がいよいよ中小企業にも適用

 来年4月1日から、中小企業でも時間外労働は原則「1か月45時間」「1年360時間」とされ、36協定で特別条項を定めた場合も法定の上限を超えると罰則の対象となる「時間外労働の上限規制」が適用されます。

 厚生労働省では、この適用に向けて、今年度下半期を集中的施策パッケージの実施期間と位置づけ、主に次のような取組みを行っています。

◆36協定未届事業場への案内文の送付

 厚生労働省では、今年度より36協定未届で労働者数が10人以上の事業場等に「自主点検表」を送付し、提出を求めるだけでなく個別訪問等も実施しています。

集中的施策パッケージでは、この自主点検により把握した36協定の届出が必要と考えられる事業場に対し、案内文を送付しています。

◆特別条項締結事業場への集中対応

 36協定の特別条項は、通常予見できない業務量の大幅増加等の場合に限り、上記の限度時間を超えて働かせても法違反とならない免罰効果を有する定めですが、上限規制により、法定の時間を超えると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

 集中的施策パッケージでは、時間外労働時間を月80時間超とする特別条項付き36協定を届け出た事業場に対する説明会の開催、不参加事業場への個別訪問等を実施して、上限規制への対応を求めています。

◆提出前にチェックを受けましょう

 来年4月1日以降を始期とする36協定届は、新様式にて作成します。新様式には、上限規制について、時間外労働時間に係るものと時間外・休日労働時間の両方に係るもののいずれをもクリアしている内容を記載しなければなりません。

 また、新設されたチェックボックスへのチェック漏れがあるとその場で修正する「補正」ではなく「再提出」扱いとなってしまう等、記入上の注意点が複数あります。

 さらに、従業員代表者が不適格と判断される等により36協定そのものが無効になってしまうと、時間外・休日労働を行わせること自体が違法行為となります。

来年度の36協定届の作成と提出では、「年中行事の1つ」との楽観視はせずに、監督署に提出する前に専門家のチェックを受けることをお勧めします。

健康保険の被扶養者に国内居住要件が求められます

外国人労働者の受入れ拡大に伴い、2020年4月1日から健康保険法の被扶養者にも国内居住要件が求められることになりました。外国人労働者の母国に残された家族の疾病、負傷などについても日本の健康保険で給付を行うことになれば、保険財政を圧迫するからです。被扶養者として認められるには、原則として、日本国内に住所を有することが要件ですが、外国にいても被扶養者として認められる者や日本国内にいても被扶養者から除外される者など一定の例外がありますので、そこを整理します。

◆法律の条文(改正後の健康保険法第3条7項)

この法律において「被扶養者」とは、次に掲げる者で、日本国内に住所を有するもの又は外国において留学をする学生その他の日本国内に住所を有しないが渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められるものとして厚生労働省令で定めるもの(※1)をいう。ただし、後期高齢者医療の被保険者等である者その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者(※2)は、この限りでない。

1号~4号  略

◆日本国内に住所を有しないが、例外的に被扶養者と認められる者

上記※1の「渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められるものとして厚生労働省令で定めるもの」とは、下記の人たちをいいます。

  • 外国において留学をする学生
  • 日本からの海外赴任に同行する家族
  • 海外赴任中の身分関係の変更により新たな同行家族とみなすことができる者(海外赴任中に生まれた被保険者の子ども、海外赴任中に結婚した被保険者の配偶者など)
  • 観光・保養やボランティアなど就労以外の目的で一時的に日本から海外に渡航している者(ワーキングホリデー、青年海外協力隊など)
  • その他日本に生活の基礎があると認められる特別な事情があるとして保険者が判断する者

◆日本国内に住所を有するが、例外的に被扶養者と認められない者

上記※2の「この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者」とは、下記の人たちをいいます。

なお、国民年金の第3号被保険者についても、健康保険と同じ2020年4月1日から国内居住要件が求められますが、その要件は上記※1、※2と同様に判定されます。第1号被保険者については、従来から国内居住要件がある一方で、国内にいても被保険者から除外される例外規定が新設されましたが、それは上記※2と同様に判定されます。

③障害者向けにスタートした「就労パスポート」

◆「就労パスポート」とは?

厚生労働省は、障害のある方の就職や職場定着を図るための情報共有ツールとして「就労パスポート」を作成・公開しました。

就労パスポートは、主に精神障害、発達障害、高次機能障害のある方(それ以外の障害のある方も活用が可能)を対象に、仕事をする際の自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮などを支援機関と一緒に整理しながら作成するものです。企業は、障害のある方の採用選考時(必須提出書類ではない)や採用後に自分の特徴を職場の上司や同僚などに説明する際に活用できます。また、本人の障害理解や支援機関同士での情報連携等を進めるとともに、企業の障害理解、職場環境整備の促進、支援機関との情報共有にも活用できるとしています。

同省は今後、就労パスポートの普及のために支援機関と企業を対象に活用方法に関するセミナーを全国で開催するとしています。

◆記載できる項目

就労パスポートの様式、活用の手引き、活用ガイドラインは、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。様式はExcelファイルで作成され、次の項目について記載できます。

  1. 職務経験
  2. 仕事上のアピールポイント
  3. 体調管理と希望する働き方
  4. コミュニケーション面
  5. 作業遂行面
  6. 就職後の自己チェック
  7. (参考)支援機関

就労パスポートは、内容を更新することができます。更新のタイミングとして、「職場定着上の課題が生じ、それを解決した時。または、課題の発生を防ぐための工夫を実践し効果が見られた時」や「本人のストレス対処やコミュニケーション、作業遂行などに関するスキルの向上が見られた時」に、本人からの希望と周囲が必要性を感じる場合が想定されます。そして、本人と企業の担当者、支援機関の三者が更新内容について話し合いの上、決定します。

また、更新した就労パスポートの写しの保管・共有と更新前の就労パスポートの写しの回収・廃棄または保管・共有については、本人の意向を尊重して取扱う必要があります。就労パスポートは個人情報として取り扱われるため、情報共有と利用目的、その範囲について本人に説明し同意を得る必要があります。参考様式として、「就労パスポートの情報取得と情報共有に関する同意書」が前述の厚生労働省ホームページの「事業者向けガイドライン」内に掲載されています。

【厚生労働省「就労パスポート」】

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06d_00003.html

事務所便り令和2年1月号
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